駆動系って何してるの?デフとギアボックスの役割整理
前回までで足回りを一通りいじってきたけど、
ここから先は「エンジンの力をどうタイヤに伝えるか」ゾーンに突入。
つまり、今回の主役は ギアボックス(変速機)とディファレンシャル(デフ)。
ラリーだと路面グリップがコロコロ変わるから、この駆動系セクションがマジで重要。
でも画面を開くと、
- LSD POWER / COAST RAMP
- LSD PRELOAD
- PLATES NUMBER
- DIFFERENTIAL RATIO
- CENTER RATIO TO REAR
- GEAR SET
みたいな単語がズラっと並んでて、「なんか難しそう…」って閉じたくなるやつ。
この第4回では、数字をいじる前に「そもそも何の役割なのか」をしっかり整理していく。
- 足回り:クルマの“姿勢”とロール・ピッチの動き担当
- 駆動系:その姿勢のまま、どのタイヤにどれくらい力を送るか担当
この役割分担をイメージできるようになると、あとでセッティングを変えるときも迷子になりにくくなる。
エンジンからタイヤまでの「力の流れ」をざっくり図解
まずは力の流れをさらっと整理しとく。
エンジン
↓(クラッチ)
ギアボックス(GEARBOX)
↓
センターデフ(CENTER)※4WDなら
├→ フロントデフ(FRONT DIFF)
│ ↓
│ フロントタイヤ
│
└→ リアデフ(REAR DIFF)
↓
リアタイヤ
各セクションのイメージはこんな感じ:
- ギアボックス
- 何速でどの速度域を使うか
- 全体としてどれくらい加速寄り/最高速寄りにするか
- センターデフ(4WDの場合)
- 前後にトルクをどう配るか(フロント多めか、リア多めか)
- フロント&リアデフ
- 左右のタイヤにどのくらい“同じように”力を送るか
- =どれくらいロックさせるか/自由に回すか
セッティング画面では、
- ギアボックス関連 → GEARBOX タブ
- デフ関連 → DIFFERENTIALS タブ
に分かれてる。
この回では、それぞれの項目が「どこの誰に命令してるのか」をざっくり理解するところまでいく。
駆動系セッティングが担当しているのは「トラクション」と「曲がり方」
足回りはどっちかっていうと
- ブレーキ時にどれくらい前に沈むか
- コーナーでどれくらいロールするか
- 跳ね返り方がどのくらい速いか
みたいな姿勢制御係。
一方で駆動系は、
- 立ち上がりでグリップをどれくらい使えるか(トラクション)
- アクセル ON / OFF でクルマがどっちに曲がりたがるか
- どの速度域でエンジンを使うか
みたいな“押し出し&曲げ方”係。
特にラリーだと、
- 片輪だけグリップが高い
- 右は締まったグラベル、左はふかふか
- 轍の中だけグリップするとか
みたいなシチュが普通にある。
こういう状況で
- どれくらい左右のタイヤを“同じように”回すか(=デフのロック具合)
- どのギアで立ち上がるか(=ギア比)
をうまく合わせておくと、
同じ足回りでも「出ていき方」がまるっと変わる
ってレベルでフィーリングが変わる。
だから、足回りが決まってきたら、次の仕上げとして駆動系を触るのが王道。
GEARBOX セクションの役割
まずはギアボックスから。
ACR の GEARBOX セクションでは、ざっくりいうと
- GEAR SET
- (クルマによっては)PRIMARY GEAR
みたいな項目が並ぶ。
GEAR SET:ギアの“間隔”を決めるツマミ
マニュアルの説明をざっくりまとめると、
- ギアセット=ギアボックス内のギア比パッケージ
- イベントや車両ごとに何種類か用意されている
- スライダーの値を変えることで、各ギアの“長さ”と“間隔”が変わる
イメージとしては、
- 値を小さくする → 全体的にクロス(短い)方向
- 各ギアの回転落ちが少ない
- 加速寄り、でも最高速は落ちやすい
- 値を大きくする → 全体的にワイド(長い)方向
- ギア間が離れる
- 最高速寄り、でも低速〜中速のツキはゆるくなる
ラリーだと、
- ハイグリップなターマック → クロス寄りにしてエンジンを“美味しい回転”で使う
- ルーズなグラベル → ワイド寄りにして、トルクを少しマイルドにしてあげる
みたいな方向性になることが多い。
ただし、この回ではまだ「方向性のイメージ」だけ押さえておけばOK。
実際にステージに合わせてギア比を決める具体的な話は、第6回でガッツリやる。
PRIMARY GEAR:ギア全体の“まとめて倍率”担当
一部のクルマでは、GEARBOX セクションに
- PRIMARY GEAR みたいな項目がある。
これは、ギアセット全体にかかる“前掛けの最終減速比”みたいなイメージで、
- 倍率を上げる → 全体的に加速寄り(でも最高速ダウン)
- 倍率を下げる → 全体的に最高速寄り(でも加速はマイルド)
に振れる。
後で出てくる DIFFERENTIAL RATIO(フロント/リアの最終減速) とも絡むので、
GEAR SET:各ギア同士の“間隔”担当
PRIMARY GEAR:ギア全体の“まとめて倍率”担当
くらいの切り分けで覚えておくと整理しやすい。
DIFFERENTIALS セクションの役割ざっくり整理
次に DIFF(ディファレンシャル)側。
ACR の DIFFERENTIALS セクションには、代表的にこんな項目が並ぶ:
- LSD POWER RAMP / COAST RAMP
- LSD PRELOAD
- PLATES NUMBER
- DIFFERENTIAL RATIO(フロント/リア)
- CENTER RATIO TO REAR(センター → リアトルク配分)
ここでは、細かい数値調整よりも、
それぞれが「いつ」「どこ」に効くパラメータなのか
を押さえるのが目的。
LSD POWER / COAST RAMP:アクセル ON/OFF 時のロックの仕方
ざっくり言うと、
- POWER RAMP
- アクセル ON(駆動トルクがかかってるとき)に
- どれくらい LSD をロックさせるか
- COAST RAMP
- アクセル OFF / ブレーキ時(エンジンブレーキ側)に
- どれくらい LSD をロックさせるか
ランプ角の値そのものは次回詳しく触るとして、
- 「オンパワーでのトラクション&オーバーステア傾向」 → POWER 側
- 「減速〜ターンイン時の安定感&ノーズの入り方」 → COAST 側
を担当してる、くらいの認識でOK。
LSD PRELOAD:最初からどれくらい“閉めておくか”
PRELOAD は、LSD が仕事を始める“初期締め付けトルク”。
- トルク差がほとんど無くても
- ある程度までは「とりあえず一緒に回ろうね」とタイヤ同士をつなぐ力
みたいなイメージ。
プリロードが高いと:
- 低い横Gでも、クルマが「まっすぐ行きたがる」傾向
- 立ち上がりでのトラクションは出やすい
- でも切り始めの頭の入りは鈍くなりがち
逆にプリロードが低いと:
- 進入〜中間の素直さは出る
- けどルーズ路面や段差で片輪が浮いたときに、空転しやすい
こんなトレードオフがあるので、ラリーカーのプリロードは
「効かせすぎず、足りなすぎず」な中庸が鉄板
って感じで、調整はかなり慎重にやる必要がある。
(具体的な数値の振り方は第5回で掘る)
PLATES NUMBER:LSD の“パワー増幅”みたいな存在
クラッチ式 LSD は中に摩擦プレート(板)がいくつか入ってて、
その枚数が多いほど LSD のロック力を大きくしやすい。
- PLATES NUMBER を増やす →
- LSD の反応が全体的に強めになる
- 小さいトルク変化でもロック方向に動きやすい
- PLATES NUMBER を減らす →
- 反応はマイルド
- ロックのピークも下がる
ここも「強くすりゃ速い」って話では全然なくて、
路面・車種・ドライバーの好みのバランスで決めていくところ。
DIFFERENTIAL RATIO:フロント/リアの最終減速比
DIFFERENTIAL RATIO は、
- フロントデフ側のファイナルギア比
- リアデフ側のファイナルギア比
をそれぞれ調整する項目になってるクルマが多い。
ここを変えると、
- ホイールにかかるトルク量(=加速の強さ)
- 前後どっち側でそのトルクを稼ぐか(=重心側の押し出し方)
が変わる。
ただし、最終減速をいじると最高速も変わるから、
- 「加速したいから」といって上げすぎると、
- ステージのストレートで頭打ちになる
みたいな落とし穴もある。
このあたりは GEARBOX の GEAR SET / PRIMARY GEAR とセットで扱う話なので、
第6回でまとめて掘り下げる。
CENTER RATIO TO REAR:センター → リアへのトルク配分
4WD 車で出てくる CENTER RATIO TO REAR は、
- センターデフからリアデフへ、どれくらいトルクを送るか
を決める項目。
ざっくりイメージとしては、
- 値を上げる
- リアタイヤに多くトルクを送る
- 加速は鋭くなるけど、ルーズ路面では空転しやすくなる
- 値を下げる
- フロント寄りになって、安定方向
- でも曲がりは鈍くなりがち
みたいな関係になりやすい。
センターのトルク配分は、
- 「クルマ全体を FF 寄りにするか、FR 寄りにするか」
を決めているイメージで捉えるとわかりやすい。
ラリーならではの「駆動系セッティング」の考え方
サーキットと違ってラリーは:
- 路面グリップがステージ内でもコロコロ変わる
- 片輪だけグリップ/ノーグリップみたいな状況が普通
- ギャップやジャンプの着地も多い
このせいで、
- タイヤが完全にグリップしてる前提のサーキット用セッティング
をそのまま持ち込むと、
- 片輪だけ空転して前に出ない
- ジャンプ着地後に急に巻き込む
- スロットル ON/OFF で挙動がガチャガチャする
みたいな症状が出やすい。
そこでラリーでは、
- LSD は「少しオープン寄りで素直さを確保しつつ、必要なところだけロックを増やす」
- ギア比は「グリップを使い切るより、扱いやすさ優先で少し安全側に振る」
みたいな考え方になることが多い。
この辺を理解しておくと、
「なんでこのプリセットはこんなギア比・デフ設定なんだ?」っていうのが
だんだん見えてくるようになる。
とりあえず押さえたいキーワードまとめ
この回のラストとして、次回以降に備えて
キーワードだけ一度整理しておく。
- ロックする/オープンになる
- ロック:左右のタイヤが“同じように”回ろうとする
- オープン:左右がそれぞれ自由に回る
- トルク配分
- 前後どっちに力を多く送るか
- 左右でどれくらい一緒に動かすか
- ギア比(GEAR SET)
- 各ギアの「長さ」と「間隔」を決める
- ファイナル(PRIMARY GEAR / DIFFERENTIAL RATIO)
- 全体の加速寄り/最高速寄りバランス
- ホイールにかかるトルクの大きさ
ここまで理解しておくと、次回の
第5回:LSD を使ってクルマの性格を作る編
で、数字を動かしたときに「何が起きてるか」をだいぶイメージしやすくなる。
自分メモは大事
最後に、次のステージで試してほしいことを軽く。
- まずは今の駆動系設定のまま走る(いじらなくてOK)
- コーナーごとに、
- アクセルを踏み始めたときに、クルマがどっちに曲がりたがるか
- ブレーキ離した瞬間に、フロントがどのくらいスッと入るか
- ルーズ路面で片輪が空転してる感じがあるか
を意識してみる。
- その感覚を、ざっくりメモっておく。
次回、第5回ではそのメモをもとに、
- 「こういう症状なら POWER RAMP をこう」
- 「こう感じたなら PRELOAD はこの方向」
みたいな“症状 → どのツマミを触るか”の話をしていく。
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