ギアボックスとファイナルで「使う回転」を決める
第6回は、ギアボックスとファイナル(最終減速比)まわりをいじって、
「どの速度帯でエンジンを使うのか」
「どの車輪でトルクを稼ぐのか」
を決めていく回にする。
- GEARBOX セクション → ギアセットとトランスミッション全体の“長さ”担当
- DIFFERENTIALS セクション → フロント/リアのファイナルと、センター→リアのトルク配分担当
って感じで役割分担してる。
この回のゴールは、
- 「ストレートで頭打ちするから、とりあえずギア伸ばすか」みたいな雑な調整から卒業して
- 路面とステージに合わせて “狙って” ギア比とファイナルを決められるようになること。
GEARBOX セクション:ギアの「長さ」と「間隔」をまとめて決めるところ
GEARBOX セクションでは主に
- GEAR SET
- (車種によって)PRIMARY GEAR
を触っていくことになる。
どっちもざっくり言うと、
GEAR SET = 各ギア同士の“間隔”を変える
PRIMARY GEAR = ギア全体を“まとめて”短く/長くする
ってイメージでOK。
GEAR SET:ギアの並び方(クロス or ワイド)を選ぶ
- ギアセットは、ギアボックス内のシャフトとギアの組み合わせ一式
- スライダー位置によって、各ギアの比と間隔が変わるプリセットを選んでいる
- 値を下げると短い(低い)ギア比、上げると長い(高い)ギア比寄りになる
ここから分かるポイントは2つ:
- 値を小さくする(ショート寄り)と…
- 各ギアの“長さ”が短くなる
- シフトポイントの間隔が狭くて、エンジン回転の落ち込みが少ない
- → 加速はいいけど、最高速は低くなりがち
- 値を大きくする(ワイド寄り)と…
- 各ギアが長くなり、ギア間隔も広がる
- → 最高速は出しやすいけど、低〜中速のツキはゆるくなる
ラリーでの使い分けイメージはこんな感じ:
- ターマック(ハイグリップ)
- グリップが高いからホイールスピンしにくい
- → ショート寄り&クロス寄りのギアセットで、エンジンの美味しい回転を使い倒す
- グラベル(ルーズ路面)
- 簡単に空転するし、路面抵抗もバラつく
- → ほんの少しワイド寄りにして、トルクの立ち上がりをマイルドにする
GEAR SETは、「このステージ、何速まで使うか?」を決めるツマミだと思うと分かりやすい。
1速〜3速メインの林道なのか、4速5速まで踏み切る高速セクションなのかで、選ぶべきギアセットが変わる感じ。
PRIMARY GEAR:ギア全体にかかる“前掛けファイナル”
車種によっては GEARBOX に PRIMARY GEAR がある。
これは、ギアボックスの前段に挟まってる「まとめて倍率を上げ下げするギア」で、
- PRIMARY GEAR を大きくする
- → 全体としてショート寄り(加速寄り)
- ホイールトルクは増えるけど、最高速は下がる
- PRIMARY GEAR を小さくする
- → 全体としてロング寄り(最高速寄り)
DIFFERENTIAL RATIO(フロント/リア側のファイナル)とセットで、
・ステージで欲しい最高速を確保しつつ、
・できるだけ加速重視に寄せていく
この微調整をするのが PRIMARY GEAR の仕事って感じ。
DIFFERENTIAL RATIO:フロント/リアの最終減速比
次は DIFFERENTIALS セクションにある DIFFERENTIAL RATIO。
- フロントとリアの ファイナルドライブ(最終減速比) を、それぞれ調整できる
- 一方だけ変えることも、両方変えることもできる
- 調整によって、
- ホイールにかかるトルク量(加速の強さ)
- 最高速
- 前後のトルク配分
が変わる
メカ的には、
- 数値が大きい(ショート)ファイナル =
- 同じエンジン回転数でも、ホイール側の回転が遅い
- → そのぶんトルクは増える
- 数値が小さい(ロング)ファイナル =
- ホイール回転が速い
- → 最高速は伸びるけど、トルクは薄くなる
両方同じ方向に振る場合
フロント/リアともに同じだけショート/ロングに振ると:
- 車全体の加速と最高速をまとめて変えるイメージ
- 前後のトルクバランス自体はあまり変わらない
このときは、単純に
- 林道でトップに届かない → もう少しロングへ
- 逆に全然回し切らない → ショート寄りへ
みたいな、「最高速の合わせ込み」で使うことが多い。
片方だけ変える場合(非対称ファイナル)
片側のファイナルだけ変えると、前後の有効トルク配分も変わる
のがポイント。
例:
- フロント:ややロング
- リア:ややショート
みたいにすると、
- 同じエンジン回転数でも、リアのほうがホイールトルクが大きい
- → 実質的に リア駆動寄りのキャラ になる
逆に、
- フロントショート/リアロング
だと、
- フロント側にトルクが乗りやすい
- → 安定志向の“FF寄り4WD”っぽいフィーリング
みたいに、ファイナルだけで性格も少し動く。
ただし、ここはセンター側の設定(CENTER RATIO TO REAR)とも絡むから、
いきなり大きく差をつけるより、
- まずは ほぼ対称(同じ値) からスタート
- キャラを変えたいときに、ほんの少しだけ前後差をつける
くらいの使い方が現実的。
CENTER RATIO TO REAR:センターからリアに何割トルクを送るか
4WD車の DIFFERENTIALS セクションには、
- CENTER RATIO TO REAR
って項目がある。
- センターデフ → リアデフへの トルク配分 を変えるつまみ
- 値を上げていくと、リアに送られるトルクが増えて“リア寄り”になる
- そのぶんリア側の有効ファイナルも変わって、加速と最高速に影響する
ざっくり言うと:
- CENTER RATIO TO REAR 高め
- リアに多くトルクが行く(リアバイアス強め)
- 加速の押し出し感は増える
- でもルーズ路面ではリアのホイールスピンが出やすくなる
- CENTER RATIO TO REAR 低め
- フロント寄りのトルク配分
- 安定はしやすいけど、向き変えは鈍くなりがち
DIFFERENTIAL RATIO と組み合わせると、
- 「ファイナルでリアをちょいショートにしつつ、センター比も少しリア寄り」
みたいにして、
4WDなんだけど、FRっぽい向き変えとトラクションを出す
みたいなキャラを作ることもできる。
ただしここも、やりすぎると
- ターマック:踏んだ瞬間にリアが一気にブレイク
- グラベル:リアだけ無限に空転して前に出ない
って沼にハマるから、最初は ベースセットから ±1〜2クリック 程度にとどめとくのがおすすめ。
路面別:ギア比とファイナルを決める手順
ここからは、実際にステージごとにギアとファイナルを決めるときのざっくり手順を出してく。
1. まずは「このステージの実トップ速度」を把握する
リプレイやテレメトリを見ながらでいいから、
- 1本走ってみて、一番速いところで何km/h出てるか
- そのとき何速の何回転くらいか
をざっくりメモる。
目安:
- レブリミットの 90〜95% くらいで最高速に届く のが理想
- 余りまくってる → ショート方向へ
- すぐ頭打ち → ロング方向へ
2. GEAR SET で「何速まで使うか」を決める
- 林道っぽい中低速コース:
- 1〜3速メインになるようにギアセットを選ぶ
- 高速ステージ:
- 4速〜5速もしっかり使えるように、少しロング寄りのセットにする
ポイントは、
「全ギアをまんべんなく使う」より
「よく使うギアの回転を気持ちよくする」
ことを優先すること。
ラリーだと、実際は
- ある程度の区間は同じギアで引っ張る
ことが多いから、そこに合わせてギア間隔を決めるイメージ。
3. DIFFERENTIAL RATIO と PRIMARY GEAR で最高速を合わせ込む
GEAR SETで「何速メインか」が決まったら、
- DIFFERENTIAL RATIO(フロント/リア)
- PRIMARY GEAR(あれば)
を使って、
- そのギアでの最高速
- 立ち上がりのトルク感
をステージに合わせていく。
ざっくり指針:
- ストレートでちょっとだけ頭打ちする
- → ファイナル or PRIMARY を ほんの少しロング へ
- どこでもレブまで余裕で届かない
- → ショート寄りに振って、加速重視に
注意点として、
- ローズ路面でショートにしすぎると、ホイールスピン祭りになって前に進まない
ので、グラベルではほんの少しだけ余裕を持たせるくらいが扱いやすい。
4. CENTER RATIO TO REAR で「駆動の性格」を微調整
- “もう少しリアで押してほしい” → CENTER RATIO TO REAR を少し上げる
- “安定させたい” → 少し下げてフロント寄りに
ただしこれは、さっき触った DIFFERENTIAL RATIO(前後ファイナル) と絡むから、
- 片方だけ極端にいじらない
- まずはベースセットから ±1クリック
くらいに抑えて、挙動を確認しながら触るのが安全。
ありがちな症状とギア/ファイナル側の対処
LSDじゃなくてギア側で解決したほうがいいことも多いから、
駆動系セッティング全体でありがちなパターンをいくつか。
症状1:高速ストレートで常にレブリミットに当たる
- 疑うポイント:
- GEAR SET がショートすぎる
- DIFFERENTIAL RATIO / PRIMARY GEAR がショート寄りすぎ
- 対処:
- まずはファイナル(DIFFERENTIAL RATIO or PRIMARY)を 1ステップだけロング へ
- まだ頭打ちするようなら、GEAR SET も一段ロング側に
症状2:どこでも全然レブに届かず、常に一段下のギアを使ってる感じ
- 疑うポイント:
- ギアとファイナルがロングすぎ
- 対処:
- DIFFERENTIAL RATIO をショート側に少し振る
- それでも足りなければ GEAR SET を一段ショート方向へ
症状3:グラベルで1〜2速がホイールスピン地獄
- 疑うポイント:
- 低速側のギアがショートすぎ
- ファイナルもショートすぎ
- 対処:
- まずは GEAR SET をワイド寄りに
- それでも苦しいなら、ファイナルも少しロング方向
- 同時に、LSD POWER を極端に強くしてないかも確認(第5回の内容とセットで見る)
症状4:フロントが常に引きずられてアンダーっぽい
- 疑うポイント:
- フロント側ファイナルがショート寄りで、実質FFっぽいバランスになってる
- CENTER RATIO TO REAR が低すぎてフロント駆動寄り
- 対処:
- フロントの DIFFERENTIAL RATIO をわずかにロング側へ
- CENTER RATIO TO REAR を 1クリックだけ上げてリア寄りに
セッティングの進め方&メモの残し方
ギアとファイナルも、LSDと同じで
「ちょっと動かす → 走る → メモる」
の繰り返しがいちばん効く。
おすすめの手順:
- まずはベースセットで1本全開アタック
- リプレイでもいいから、
- 最高速
- よく使ってるギア
- レブに当たってる場所
をメモ
- GEAR SET or ファイナルを どちらか片方だけ 1ステップ動かす
- 同じステージをもう1本走って、
- タイム
- フィーリング
- 変えて良くなったか/悪くなったか
をノートに残す
ここまでやると、2〜3ステージ分のメモだけでも
- 「このタイプのコースなら、このギアセット+このファイナルが合う」
ってパターンが少しずつ見えてくる。
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