LSDを使ってクルマの性格を作る
第4回で、駆動系が担当してるのは
- どのタイヤに
- どれくらいの力を
- どんなタイミングで送るか
って話をざっくり整理したじゃん?
今回はその中でもラリーカーの挙動に直結する LSD(リミテッド・スリップ・デフ) をメインでいじっていく回。
DIFFERENTIALS セクションに出てくる、
- LSD POWER RAMP
- LSD COAST RAMP
- LSD PRELOAD
- PLATES NUMBER
この4つが何をしてて、どう動かすとクルマがどう変わるのか。
「数値だけ見ても意味わからん…」って状態を卒業するのが今回のゴール。
まずは前提:オープンデフとLSDの違い
ざっくり言うと:
- オープンデフ
- 左右のタイヤを“完全に自由”に回す仕組み
- 片輪がツルツルの路面に乗ると、そっちばっか空転して前に出ない
- LSD(リミテッド・スリップ・デフ)
- 左右のタイヤの回転差が大きくなりすぎないように“つなぎ止める”装置
- ある程度までは「一緒に回ろうね」と縛る→トラクションアップ
ラリーだと、
- 右輪は締まった砂利、左輪はふかふか
- 片輪だけ轍の中に入ってる
- ジャンプの着地で一瞬どっちかが浮く
みたいな状況がめっちゃ多い。
ここでオープンデフだと、空転側にトルクが逃げて前に出ない。
LSDで“ほどほどにロック”してあげることで、
グリップしてる側のタイヤにもちゃんと力を送る
ってことをやってくれる。
ただし、ロックが強すぎると今度は左右が“ひとつの固まり”みたいになって、
- 頭が入らない(フロントならアンダー)
- アクセルONでケツが一気に出る(リアならオーバー)
みたいな副作用も出てくる。
この「トラクション」と「曲がりやすさ」のバランスを調整してるのが、
LSDの各パラメータってイメージ。
LSD POWER / COAST RAMP:アクセルON/OFFでのロックの仕方
まずは一番わかりづらいけど、一番効き方がハッキリ出る POWER / COAST RAMP から。
- POWER RAMP
- アクセルON、つまり駆動トルクがかかってるときに
- LSDがどれくらい強くロック方向に働くか
- COAST RAMP
- アクセルOFF〜ブレーキ時、エンジンブレーキ側のときに
- LSDがどれくらいロックするか
さらに、ランプ「角度」がポイントで、
- 角度を小さくする(Lower angle)
- ロックが強くなる
- トラクションは増えるけど、左右の回転差をあまり許さない
- 角度を大きくする(Higher angle)
- ロックが弱くなる
- 左右の回転差を許して、クルマは軽く曲がりやすくなる代わりに、トラクションと安定性は控えめ
って感じの方向性になってる。
フロントLSDでのPOWER / COASTのイメージ
- フロント POWER を強め(角度を小さく)すぎると
- アクセルONで両フロントを“同じだけ”回そうとする
- → ステアを切っても外側が引きずられて、アンダーステア寄り
- フロント COAST を強めすぎると
- ブレーキ〜ターンインでも左右をつなぎすぎる
- → 進入で頭が入りにくく、直進安定はあるけど曲がりは鈍い
なので、フロントは
- COAST:やや弱め〜中くらい
- POWER:トラクション欲しいけど、アンダーで困らない程度
くらいから探っていくのが無難。
リアLSDでのPOWER / COASTのイメージ
- リア POWER を強める(角度を小さくする)
- 立ち上がりで両リアをグッとつなぐ
- → トラクションは出るけど、滑り始めると“まとめて”流れやすくなってオーバーステア寄り
- リア POWER を弱める(角度を大きく)と
- アクセルONでも左右の自由度が高い
- → 安定はするけど、踏んだときの押し出し感は薄くなる
- リア COAST を強めると
- ブレーキ〜ターンインで両リアを一緒に減速させる
- → 直進安定は高いけど、ターンインでケツが回り込みにくい
- リア COAST を弱めると
- 進入でリアがよく動く
- → 向きを変えやすい代わりに、ラフなブレーキで不安定になることも
ラリーだと、
- リアPOWER:中〜やや強め(踏んだらちゃんと出ていく程度)
- リアCOAST:中〜やや弱め(ターンインで向きが変わるくらい)
くらいから乗り手の好みに合わせて振ってく感じが扱いやすいことが多い。
センターデフでのPOWER / COAST
4WD車でセンターデフもLSDになってる場合、
- センター POWER:加速時の前後トルク配分の“固定具合”
- センター COAST:減速時、前後をどれくらい一体にするか
に効いてくる。
ここをロック強めにすると:
- 4輪で“グイッ”と押し出す感じになる
- けど、クルマ全体が一つの塊っぽく動いて、細かい姿勢作りは難しくなる
逆にロック弱めだと:
- 荷重の乗った側だけよく働く
- 細かい姿勢作りはしやすいけど、トラクションは控えめ
センターは全体のキャラを決めるとこだから、
最初はメーカー推奨(ベースセット)から大きく外さず、
フロント/リア側でキャラ作りするのが安全。
LSD PRELOAD:最初からどれくらい“締めておくか”
次は LSD PRELOAD。
これは、左右のタイヤにトルク差がほとんど無い状態でも、
「とりあえずこのくらいまでは一緒に回っといて」
っていう 初期締め付けトルク だと思えばOK。
ざっくりこういうイメージ:
- 低トルク時(進入〜ゆるい加速)
- プリロードが高いと、コーナー進入を遅くしてステアリング応答を鈍くする
- 軽いアンダーステアをつくる方向に働きやすい
- 高負荷時(しっかり加速/強い荷重変化)
- デフがあらかじめ締まってるおかげで、
- 車軸間のスリップ差に素早く反応してトラクションと安定性を助ける
つまり、
- プリロード高め → 進入は鈍くなるけど、踏んだときの安定感とトラクションは上がる
- プリロード低め → 進入は軽くなるけど、荒れた路面や片輪グリップ差で空転しやすい
っていうトレードオフ。
実践的な使い方のコツ
- まずは“やや低め〜中くらい”からスタート
- いきなり高プリロードにすると、どこが効いてるのか分かりにくい
- 進入で「なんか全部が重い」って感じたら
- フロントとセンターのプリロードを少しずつ下げてみる
- ルーズ路面で片輪がすぐ空転して前に出ないなら
- リア(もしくはセンター)のプリロードを少し上げてみる
いずれにしても、一気にガッツリ変えないで、
1段階ずつ上下させてフィーリングを確認するのが大事。
PLATES NUMBER:LSDの“性格の濃さ”調整
最後は PLATES NUMBER(プレート枚数)。
クラッチ式LSDの中には摩擦プレートが何枚か入ってて、
この枚数を増やすと、LSDが発揮できるロック力の“上限”と“立ち上がりの速さ”が上がる。
ざっくりいうと:
- 枚数を増やす
- ロッキング効果を増幅
- LSDがよりアグレッシブになる
- トラクションの良い側のタイヤに、より多くトルクを送れる
- 枚数を減らす
- ロックの立ち上がりがマイルド
- 最大ロック量も控えめで、挙動は穏やか寄り
なので、プレート枚数は
「このクルマのLSDは、そもそもどれくらい暴れさせるキャラにするか」
を決める“濃さ調整”みたいなもの。
ランプ角(POWER/COAST)やプリロードで細かく味付けする前に、
- アグレッシブに動かしたい:プレート多め寄り
- とにかく扱いやすさ優先:プレート少なめ寄り
っていう方向性を決めると、後の調整がやりやすい。
症状別:どのツマミから触るかミニガイド
ここまでの話を、実際のセッティングに落とし込むために、
よくある症状から「どこを触るか」の例をざっとまとめとく。
※あくまで“最初の一手”の目安ね。やりすぎ注意。
1. 立ち上がりでイン側が空転して前に出ない
- 想定される状態:
- POWER側のロックが弱すぎる / プリロードが低すぎる
- 試す順番:
- リアLSDの POWER RAMP角度を少し小さく(ロック強め)
- それでも足りなければ、プリロードを少し上げる
- 副作用:
- オーバーステア気味になりやすいので、変えた後は必ずフル加速区間で挙動チェック。
2. アクセルONでリアがすぐ流れてビビる
- 想定される状態:
- リアのPOWERロックが強すぎる / プレート枚数が多すぎる
- 試す順番:
- リア POWER RAMP角度を大きくしてロック弱め方向へ
- まだ暴れるなら PLATES NUMBERを1段階減らす
- それでもダメなら:
- まずは自分のアクセルの踏み方も疑う(いきなり全開にしてないか?)
3. ブレーキ離した瞬間にリアがピクッと出る
- 想定される状態:
- リアCOASTが弱すぎて、減速時に左右がバラバラに動きすぎ
- 試す順番:
- リア COAST RAMP角度を少し小さく(ロック強め)
- センターLSDのCOAST側も、ほんの少しだけ強め方向を試す
- 注意点:
- やりすぎると今度は曲がらないので、「落ち着いたかな?」くらいで止めるのが吉。
4. 低速ヘアピンでハンドル切っても頭が入らない
- 想定される状態:
- フロントのCOASTロック or プリロードが強すぎ
- 試す順番:
- フロント COAST RAMP角度を大きくしてロック弱め方向
- それでも重いなら、フロントプリロードを少し下げる
- それでも改善しないとき:
- 足回り(フロントスプリング/ARB/キャンバー)側の見直しもセットで考える。
調整の順番と注意点
最後に、LSDを触るときの基本ルールをサクッと。
- 一回の走行で変えるのは“1系統だけ”
- 例:このステージは「リアPOWERだけ」をいじる、みたいに決める
- 1クリック or 1ステップずつ
- いきなり大きく振ると、何が原因で挙動が変わったか分からなくなる
- 路面タイプごとにメモを残す
- グラベル/ターマック/雪で、同じ設定が同じように感じるとは限らない
マニュアルでも「各設定の影響を理解するには段階的に調整すること」「必ず地形タイプに合わせて最適化していくこと」って強調されてるし、
ラリーはほんとに路面次第でフィーリングが激変するから、
ちょっと動かす → 走る → メモ → またちょっと動かす
このサイクルがいちばんの近道。
次回予告:ギア比とファイナルで“使う回転”を決める
第5回では、LSDの基本パラメータを一通り押さえた感じ。
次の 第6回 では、
- GEAR SET
- PRIMARY GEAR
- DIFFERENTIAL RATIO / CENTER RATIO TO REAR
みたいなギアボックス側の設定を使って、
「どの速度帯でエンジンを使うか」「どの車輪でトルクを稼ぐか」
を決めていく話をしてく。
足回り+LSD+ギア比がつながると、
ACRのラリーカーが一気に“自分のマシン”になってくるから、
次回もそのまま続けて読んでほしいとこ。
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