ダンパー編 ― 荷重移動のスピードをいじる回
前回は、
- 車高(アジャスターリング / Ride Height)
- スプリングの硬さ(Spring Stiffness)
この2つで 「足回りの土台と性格」 を作るところまでやった。
今回の主役は ダンパー(Dampers)。
ダンパーの役割はざっくり言うと
荷重移動が起きる“その瞬間”(トランジェント)の挙動をコントロールするもの
スプリングやロールバーみたいに どのタイヤにどれくらい仕事をさせるか(機械バランス) を変えるパーツじゃなくて、
- どれくらいのスピードで
- どれくらいスムーズに
荷重を移動させるかを決める担当。
ここ勘違いして「アンダーだからダンパーで何とかするか」ってやり始めると、セッティング沼一直線になる。
ダンパーメニュー整理
ゲーム内で触るダンパー項目は、基本この4種類(前後それぞれ):
- Slow Bump(スローバンプ)
- Slow Rebound(スローリバウンド)
- Fast Bump(ファストバンプ)
- Fast Rebound(ファストリバウンド)
ざっくりいうと
- スロー系 → ドライバー操作でじわっと起きる動き(ブレーキ・ステア・アクセル)に効く
- ファスト系 → 路面からドカンと来る入力(ギャップ・縁石・ジャンプ着地)に効く
これを頭の片隅に置きつつ、それぞれもう少し踏み込んで見ていく。
1. スローバンプ (Slow Bump)
1-1. 何をしているパーツ?
スローバンプは
- ドライバーの操作(ブレーキ・ステア・アクセル)でサスがゆっくり沈み込むときの抵抗
- フロントなら「ブレーキでノーズが入るスピード」
- リアなら「アクセルオンでリアが沈むスピード」
ここをコントロールしてる。
1-2. スローバンプを“増やす”とどうなる?
数値を上げる(硬くする)と:
- サスペンションが簡単には沈まなくなる
- 車体の動きがゆっくりになって、姿勢が安定しやすい
だけど、やりすぎると
- 入力に対して車がモッサリ反応する
- ノーズが入ってくれなくて、ブレーキしても曲がり始めない車 になりがち
1-3. スローバンプを“減らす”とどうなる?
数値を下げる(柔らかくする)と:
- ブレーキでノーズがスッと入る
- アクセルオンでリアが沈みやすく、トラクションが出やすい
というメリットがある反面、
- ブレーキで前にドーンと荷重が乗りすぎてフロントが飽和しやすい
- リア側は軽くなりすぎて進入で不安定になる
みたいな方向に転びやすい。
1-4. ありがちな症状と調整の方向
- ブレーキした瞬間にノーズがドーンと入って怖い
- → フロントのスローバンプを少しだけ増やす
- ブレーキしてもいつまでも曲がり始めない
- → フロントのスローバンプを少しだけ減らす
- アクセルオンでリアが沈みすぎて、立ち上がりでグニャグニャする
- → リアのスローバンプを増やして支えてあげる
ここでも一気に触らず、前後どちらか片側を 1〜2クリックだけ 変えるのが基本。
2. スローリバウンド (Slow Rebound)
2-1. 何をしているパーツ?
スローリバウンドは、
- ブレーキ・ステア・アクセルのあとで、沈んだサスが元の位置に戻るスピード
- ターンイン → ミッド → 立ち上がり… みたいに、コーナーの中で徐々に姿勢が切り替わるときの制御
を担当してる。
ここをいじると
- 荷重をどれくらい長く残すか
- 逆にどれくらい早く抜くか
が変わる。
2-2. スローリバウンドを“増やす”とどうなる?
数値を上げると:
- 一度かかった荷重が、長く残りやすい
- ロールやピッチがゆっくり戻るので、落ち着いた動き になる
でも、やりすぎると:
- コーナーを抜けたあとも姿勢が戻り切らず、次の操作に対して重い
- 荷重が抜けにくくて、タイヤのグリップ回復が遅れる
2-3. スローリバウンドを“減らす”とどうなる?
数値を下げると:
- 荷重がさっと抜ける
- 連続コーナーで、次の姿勢に切り替えるのが早くなる
ただ、下げすぎると:
- 車が「フワッ → ゆらゆら」しがち
- ピッチングやローリングがいつまでも収まらない
2-4. ありがちな症状と調整の方向
- コーナー出口で、いつまでも車が起き上がらずモタつく
- → フロントのスローリバウンドを少し減らす
- 一度曲がり始めたら、車が起き上がる前にリアがすっぽ抜ける
- → リアのスローリバウンドを少し増やして、荷重を残す
- S字の切り返しで、姿勢の切り替えが遅い
- → 前後ともスローリバウンドを微減して、動きを軽くする
3. ファストバンプ (Fast Bump)
3-1. 何をしているパーツ?
ファストバンプは、
- 路面のギャップ
- 大きめのバンプ
- 縁石をガツンと踏んだ瞬間
- ジャンプ着地
みたいな 急激で大きい入力でサスが一気に縮むとき の抵抗を担当してる。
3-2. ファストバンプを“増やす”とどうなる?
数値を上げると:
- 大きい入力でサスがガツンと沈みにくくなる
- 底付きしにくくなって、着地での衝撃がマイルド になることもある
けど、やりすぎると:
- サスが動かなくなって、ギャップでタイヤが跳ねやすくなる
- 荒れたグラベルだと、接地時間そのものが減ってトラクションダダ落ち
3-3. ファストバンプを“減らす”とどうなる?
数値を下げると:
- サスがよく動いて、タイヤが路面をなぞりやすくなる
- 荒れた路面での接地感がアップ
ただ、下げすぎると:
- 大きい着地でストロークを使い切って、一気に底付き→グリップ喪失
3-4. 路面ごとの考え方
- 荒れたグラベル・スノー
- ファストバンプは弱め寄り
- サスにちゃんと動いてもらって、タイヤを路面に貼りつかせる方向
- フラットなターマック+縁石そこそこ
- 中間〜やや強め
- 底付き防止と、縁石ヒット時の姿勢乱れを抑える感じ
- ジャンプ多めのステージ
- デフォルトより ちょい強め にして、着地でストロークを守る
4. ファストリバウンド (Fast Rebound)
4-1. 何をしているパーツ?
ファストリバウンドは、
- ギャップや着地で一気に縮んだサスが
- 一気に伸びるとき のスピードをコントロールするパーツ。
ここを雑に触ると
- いつまでもピョンピョン跳ねる車
- 逆に“伸びきり”状態でタイヤが路面をなぞれない車
になりがち。
4-2. ファストリバウンドを“増やす”とどうなる?
数値を上げると:
- サスが一気に伸びるのを抑える
- 着地後に車がドーンと持ち上がるのを防げる
でも、上げすぎると:
- サスが伸びきる前に次のバンプが来て、ストロークを使い切れない
- タイヤが路面から離れがちになって、接地時間が減る
4-3. ファストリバウンドを“減らす”とどうなる?
数値を下げると:
- サスが素早く伸びて、連続バンプでもストロークを使いやすい
- 荒れた路面での接地感が出やすい
ただ、下げすぎると:
- 着地 → 伸び → もう一回縮む…のループで、ポンポン跳ねる車 になる
5. ドライビング操作ごとの“効きどころ”
実際にセッティングするとき、
どの挙動を直したくて、どのツマミを触るのか
ここが分かってないと適当に数値をいじるだけのゲームになる。
大まかに分けるとこんな感じ。
5-1. ブレーキング(進入)
気にするのは主に フロントのスローバンプ / スローリバウンド。
- ブレーキ踏んだ瞬間にノーズが入りすぎて怖い
- → フロントのスローバンプを少し増やす
- ブレーキしてもいつまでも曲がり始めない
- → フロントのスローバンプを少し減らす
- ブレーキを抜いた瞬間に、リアがフッと軽くなってスピンしそうになる
- → リアのスローリバウンドを少し増やして、荷重が抜けるスピードを抑える
5-2. コーナー中(ミッドコーナー)
ここは 前後のスローリバウンド がメインプレイヤー。
- 一度ロールしたらなかなか戻らなくて、ライン修正が効かない
- → 前後のスローリバウンドを少し減らす
- 連続する中速コーナーで、いつも同じ側のタイヤからすべり始める
- → 荷重が残りすぎてる側のスローリバウンドを少し減らす
5-3. 立ち上がり(アクセルオン)
ここは リアのスローバンプ / スローリバウンド が効く。
- アクセルオンでリアが沈みすぎて、トラクションは出るけど姿勢がグニャグニャ
- → リアのスローバンプを増やして支える
- 立ち上がりで早めにアクセルを開けたいのに、リアがすぐ抜けていく
- → リアのスローリバウンドを増やして、荷重を残す
5-4. 荒れた路面 / ジャンプ
ここは ファストバンプ / ファストリバウンド の仕事。
- ギャップでタイヤがすぐ跳ねて、ハンドルも暴れる
- → ファストバンプを弱める方向を試す
- ジャンプ着地で一発目は耐えてるけど、そのあと車がピョコピョコ跳ねる
- → ファストリバウンドを増やして、伸びるスピードを抑える
- 連続バンプで底付きはしないけど、車が落ち着く前に次のバンプが来る感じ
- → ファストリバウンドを少し減らして、サスに素早く伸びてもらう
6. 実戦向けダンパー調整の手順
こんな手順で触るとハマりにくい。
6-1. ステップ0:ベースセットを決めておく
- 第1回で作った 車高+スプリングのベースセット を用意
- ダンパーは一旦「デフォルト or ごく近い値」に戻す
先にスプリング側の性格を決めておかないと、ダンパーで何を補正してるのか分からなくなる。
6-2. ステップ1:スロー系から触る
- テスト用のステージを1本決める(できれば中速〜高速が混じったやつ)
- フロントのスローバンプだけを 1〜2クリック動かしてテスト
- 元に戻して、次はリアのスローバンプだけを 1〜2クリック動かしてテスト
- 同じように、スローリバウンドを前後別々に触って挙動メモ
このときのポイント:
- 一度に変えるのは「片側・1項目・1〜2クリック」まで
- 各変更ごとに 2〜3本走る
- 走り終わったら、「良くなった/悪くなった」を一言でもいいからメモ
6-3. ステップ2:ファスト系で路面に合わせる
スロー側で「ブレーキ〜旋回〜立ち上がり」の挙動がある程度気に入ったら、
今度は路面とステージに合わせてファスト側をいじる。
- 荒れたグラベル → ファストバンプ弱め、ファストリバウンド中間〜弱め
- フラットなターマック → ファストバンプ中間〜やや強め、ファストリバウンド中間
- ジャンプ多め → ファストバンプやや強め、ファストリバウンドも少し強め
ここでも、一度にガラッと数値を変えず、
- 「ファストバンプ 2クリック」→テスト
- 「それでも跳ねるなら、次はファストリバウンド 1〜2クリック」
みたいに、順番に動かす のがコツ。
7. よくある失敗パターンと抜け道
7-1. 全部固めた結果、何が何だか分からなくなるやつ
ありがちなのが、
- 「安定させたい」→全部ちょっとずつ固める
- → 車がぜんぜん動かなくなって、滑り出しも唐突
- → 何をどう戻せばいいか分からない
こうなったら一回落ち着いて、
- スロー系・ファスト系ともにデフォルト付近まで戻す
- それから「気になってる症状」に対応する項目だけを順番に触り直す
これが一番早い。
7-2. 全部柔らかくして“フワフワ地獄”になるやつ
逆に、
- 「グリップ欲しい」→全部柔らかくする
- → 荷重移動が収まらなくて、ずっとフラフラ
みたいなパターンもある。
この場合もやることは同じで、
- スローリバウンドを中心に、デフォルト付近まで戻す
- そのうえで、ピッチングやローリングが気になる方向だけ ちょい固め
7-3. ダンパーで機械バランスを無理やりいじろうとする
「ダンパーは機械バランスではない」
- アンダー/オーバーそのものは スプリング+アンチロールバーで決める
- ダンパーはあくまで、そのバランスで どう荷重を動かすか を整える役
ここを守らないと、
一部のコーナーだけ合うけど、他が全滅
みたいな意味不明セットが出来上がる。注意ポイント。
8. 今回のまとめと次回予告
キモだけもう一回並べると:
- ダンパーは 荷重移動のスピードと滑り出し方をコントロールするパーツ
- スプリングやロールバーで決めた機械バランスを、
どれだけ穏やかに/どれだけキビキビ動かすか を調整するもの - いじるときは「片側・1項目・1〜2クリック・同じステージでテスト」が鉄則
次回は、足回りシリーズラストとして アンチロールバー&アクスル編。
- ロール量
- 前後グリップの配分
- ラリー特有の「硬くしすぎない」考え方
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